おじさん、路上を楽しむ


新宿某所。

今回話したホームレスの方は斉藤さん(仮名)という、60歳のおじさんだった。

白くてモコモコした暖かそうな生地のシャツに紺のスウェット、赤いサンダルを履いた姿にグレーのベレー帽がよく似合う。

整った顔立ちで、泉谷しげるを柔らかくしたような優しげな雰囲気。声は明るく、口調もはっきりしている。笑うと綺麗な並びの白い歯が見えて、良い人柄が伝わってきた。

路上生活を始めてから2年ほど、主にアルミ缶収集で生計を立てている。曜日ごとに場所は違うが公園などにゴミ収集の業者が来て、グラム単位でアルミ缶や新聞紙を買い取ってもらう。

路上に落ちている缶を回収するだけではなく、付近の団地やマンションの管理人さんにかけあって、ゴミの分別ついでにアルミ缶をリサイクル回収させてもらったりもするそうだ。
斉藤さんはかなり集めているほうで、収入は週に1万前後、食事やお酒には困らない。

ホームレスの人たちに対し支援団体から炊き出しも多く行われているが、斉藤さんは特に顔を出さないと言う。
炊き出しのごはんは味がかなり淡白で、食べきれないほど量が多いのであまり好きではないらしい。食べるのに十分な収入はあるので、好きなものを選んで食べる。

着る物上下から下着、靴下、手袋、帽子、靴に毛布、寝袋まで、衣類も週に一回は支援団体からの支給があるおかげで特に困ることはない。
日用品も同様に貰えるほか、近所の100円ショップで安く買えるため必要なものは揃っているという。

新宿付近にいるホームレスの人たちの多くは、天気の悪い日には都庁下の広場などに集まり雨をしのいでいるが、斉藤さんは雨風を防ぎ、大人ひとりが寝るのに十分な場所を木材やブルーシートで作っており、寝る場所を転々としているわけではない。

このように衣食住がこと足りている事には驚いた。少なくとも本人には苦しい生活というわけではないらしい。

他のホームレスの人や一部地域の人とも交流があって、人とのつながりもある。マンションのゴミ出しの際に仲良くなった主婦のおばちゃんからは毎回差し入れをもらったり、時に自宅でごはんをご馳走になったりする。

春の花見や秋の紅葉など、お祭りムードで公園に人が多く集まるときは、歌舞伎町の若いお姉さんたちとお酒を楽しんだりもするらしい。


斉藤さんの表情や声は明るく、生き生きとしていた。


衣食住や生計・収入に関わる路上生活全般以外にも話は及び、漁師や船大工、板前など昔は色々な仕事をしていたこと、趣味だった海釣りの話、好きなお酒の種類やセブンイレブンのお気に入りメニュー等など、斉藤さんのプライベートな話や世間話なども聞くことができた。話していて単純に楽しくて、あっという間の2時間だった。


斉藤さんは路上生活を楽しんでいる。


以前話したことのあるホームレスの人たちの中には、家族や友人含めほとんど人とのつながりを失っている人もいれば、ひどく疲れた様子で寝床をフラフラと探し歩く人、心身に障害を持っており働くことや会話自体が難しい人など、ホームレスとしての生活に苦しんでいる人がやはり多かった。

それだけに今回の斉藤さんのように貧困に苦しんでいるわけではなく、むしろ路上生活を楽しんですらいるような人もいるというのは驚きであったし、「ホームレス」という一概念で一くくりにはできないということを改めて感じた。だからこそ、対話を通してホームレスの方々一人ひとりの事をよりよく知っていくことが大切だ。


斉藤さんとは今回、初対面だったこともあり広く浅くしか話せなかったが、斉藤さんのライフストーリーやホームレスになった詳しい経緯、ホームレスの人に回ってくる変わった仕事の話など、深く掘り下げて聞いてみたら面白そうな話もたくさんあった。

それはこれから何度も会いに行く中で信頼関係が生まれてこそ聞ける話だろう。こちらの人生勉強になるような話も多々あったし、ぜひまた会いに行きたいと思う。

そして今度は話を聞くだけではなく、自分という人間がどういう人なのかを開いて話し、知ってもらうことで、もっと親密になりたい。個人的には、ホームレスの人たちと友達のようになれたらと最高だと思っている。


一人の人間として、つながりを築いていくことが出来たなら。
ホームレスの人たちの生の声を、想いを、多くの人に伝える架け橋になれたなら。


やりがいは、ある。

[twitter:@mutwo_0712]